新機動戦記ガンダムW

 1995年。サンライズ作品。いわゆる平成ガンダム4部作の3作目にあたる。
ストーリー:地球連合に歯向かう一部のコロニー居住者達は5機のガンダムを地球に送り出す。しかしこれが火種となりコロニーと地球との全面戦争が始まる。


私が本作を気に入ってる点は以下の通りです。
・キャラが立ってる
 SEEDをここまで見てきて未だにキラの性格・行動がわからないのと正反対に、Wのキャラは主人公ヒイロをはじめ、みなキャラが立っておりわかりやすい。行動はエキセントリックなところが多いがそれにはわけがある。本作は「主人公に感情移入して見る」作品ではなく、「主人公達のスケールの大きな行動を傍で見て楽しむ」作品だからである。このことは製作者側は確信犯でやっている。1クール目が主にライバルキャラで「常識人」ゼクスの視点から描かれているのが何よりの証拠である。(途中からはあやしくなりますが)解りやすくいうならば、本作のガンダム+そのパイロットは怪獣映画の怪獣なのである。その、常人ではできない行動や決断を見て楽しむ作品なのである。
・群像劇である
 これは私の趣味だが、主人公に山盛りカルマをのせ、世界の中心として主人公を描く作品があまり好きでなく、反対に様々なキャラが同等の立場で動く群像劇が好きなのである。本作は特にその傾向が強く、各キャラクター達はあっちこっちで好きなように絡み合い事件を起こしている。世界の流れも当然主人公のことなど考慮せずに進む。それがいい、それが心地よい。主人公のご機嫌うかがって世界が動く作品は嫌いなのである。
・戦闘シーンがカッコイイ
 SEED以降、MSはCGで描かれています。しかしWの当時はまだアニメーターの手書きでした。そのため今見るとちょっと古臭い印象があります。そのへんはちょっと脇においとくとして。動きが実にいいのである。これは動きが早い、ということではないです。緩急がしっかりつけられているということです。剣を振りかぶって切りつける。ライフルを構えてぶっぱなす。動きに「タメ」がある。一つ一つの動きに「しぐさ」があるのです。きちんと人(MSですが)の動き方を知ってる職人さんの手による作品なわけです。ひるがえってSEEDを見て見ましょう。動きは早いです。一見スピィーディーに見えますが、正直早いだけで全然「かっこよくない」です。タメがないので、ただ動いているだけです。全然燃えません。なお、この傾向はZガンダムなどにも見られる悪癖です。
 もう一つ、MSが空を飛ばない!これがイイのです。無論全てが飛ばないわけではなく、主役機Wガンダム他、飛行機能を持ったMSは複数登場し、それらは飛びます。しかしそれ以外のMSは「空を飛ばない」のです。(輸送機から飛び降りたりはしますが)これの前々作「Vガンダム」や、後番組「ガンダムX」ではMSが「ふよふよ」と飛んでいました。何の説得力もありません。趣が無いのです。MSは金属の塊です。陸戦兵器です。なのにまるでシャボン玉のように宙に浮いていました。これではだめです。設定もなにもあったもんじゃない。その点Wはリアルに描いていました。飛べないMSはあくまで地面の上に両の足で立っているのです。こんな当たり前のことが、しかしとても大切なことで、これが守られていたWの戦闘シーンはリアルでかっこよかったのです。このことを押さえて書かれた作品は他には初代ガンダムがあります。初代の戦闘シーンは本当にかっこいいです。それがZ以降単に早くなってしまい趣がなくなりました。(Gはここではおいときます)その、味のあるカッコイイ戦闘シーンをよみがえらせたのがWなのです。
・デザイン
 「シルエットで判別できるデザインは良いデザインである」らしいです(うろおぼえ)。その点で言うとWのMSは非常に良いデザインです。ぱっと見ですぐにわかります。大事なことです。再三比べてけなして悪いが、SEEDでは一向に区別がつきません。無論シーンの流れがあればある程度はわかるのですが、設定画などではまったく区別がつきません。色が付いてればなんとか、といったレベルで、主人公機となると長年オタクをやってきて、勇者シリーズエルドランシリーズも見てきて、スーパーロボット対戦やGジェネレーションもやってきている私ですら、まったくワカリマセン。ストライクとインパルスの区別がつきません。羽広げてないとフリーダムとわかりません。頭部だけだとホントにどの機体なのが見当すらもつきません。御大大河原氏デザインでありますが、正直良いデザインではありません。その点Wは特徴的なのでシルエットでも一目でわかります。えぇ、背中に翼の生えたMSは他にはいませんからねぇ。
・音楽
 盛り上げるシーンではきちんと盛り上がる曲がかかります。大事なことです。BGMが良いので機会があれば聞いてみてください。
・人外が出てこない
 ニュータイプを始め人外のものが出てくることが多いガンダムシリーズ。そのなかで人間しか出てこない本作は貴重です。富野監督は最終回に超常現象を起こすのが大好きなひとで、必ず何かしらの変なことが起こっていますが、本作では一切ありません。突然超能力で心の声が聞こえたり、死人と話したり、MSが勝手に合体したり、変な光が機体から出てみんなをラリさせたりしません。あくまで物理現象の範囲内で全てが収まっています。大丈夫です。超常現象を起こさなくても人を感動させる物語は作れます。そう、本作がそうです。



とまあ、いろいろ感情のままに思いつくことを書いてきましたが、要するに私はWを気に入っているのです。正直全編全てが名作とは、さすがのファンの私でも言いませんが、突き抜けて面白い回が多いのがWの特徴です。初代の面白さをもっとも良い形で引き継いだ名作と思います。(企画意図に「歴代のガンダムのエッセンスを全て詰め込む」というのがありますので、仮面のライバルとか、あえて初代の記号を踏襲してる部分があります)カッコイイMS戦を見たければぜひWをご覧になることをお勧めします。